三国志の世界はシビアな契約社会?実力主義という面で考えてみる

昭和30年代から40年代にかけて、「サラリーマンは気楽な稼業」と社会風刺した歌や映画が大ヒットしました。戦後の日本では、「終身雇用」「定年までひとつの会社で勤め上げる」ことが当たり前でしたが、現代では「早期退職やリストラも当然」「正社員として採用するのではなく、より安価なアルバイトやパートが重宝される」「定年が65歳まで延びる」など、労働環境が劇的に変化しました。

民間企業は、たとえ世界に名を馳せる大企業であっても経営破たんや倒産する可能性がゼロではありません。企業に勤める私達一人ひとりも、いつクビを切られるか解らない条件で働くことが当たり前の世界になってきています。

・三国志の英雄に仕えた参謀・豪傑は「正社員」か「契約社員」か?

曹操・孫権・劉備・袁紹・呂布・劉表…その他多くの群雄、英雄に仕えた参謀や将軍達は、現代で言うところの「正社員」だったのでしょうか。当時は家柄や名声で推薦されて職に就くことが多く、実力だけで這い上がるのは大変だったとされています。しかし、そのような中でも劉備は庶民から皇帝に昇り、孫権に仕えた名将の中には元海賊という者も少なくはありません。

人材の確保に最も積極的だった曹操の下にも、賊から身を守るために村ごと避難した中にいた怪力の持ち主を見出して親衛隊長に抜擢するなど、「実力さえあれば重職に就くことも可能だった」時代でもあります。むしろ、実力者は今よりも早く昇進や要職を任される機会に恵まれていたのかもしれないですね。諸葛孔明などは、「就職即劉備軍のナンバー2」だったわけですから、年功序列ではなく実力がモノを言ったと考えることもできます。

では、実力さえあれば安泰だったのかというと、そうでもなかったことが解ります。あまりに切れ者過ぎて曹操に危険視されて処刑された者もいれば、敵の策にかかって失脚させられた者もいます。歴史に名を残せなかった人物の中には、荷が重過ぎるとして免職された者も多くいたことは容易に想像できますし、地位に不満を持ってあえてクビになる策を巡らせた人物もいます。決して「終身雇用の安定した身分」は保証されていなかったというのは、今よりもシビアだったでしょう。

・脱走兵は一族皆殺しの時代

日本の戦国時代でも多くの兵士が戦場に駆り出され、数知れない死傷者が出ていますが、三国時代も将軍達だけが戦っていたわけではなく、職業兵士という身分が存在していました。その規律は相当に厳しかったとされ、五人一組の連帯責任制や、脱走した兵士がいたときにはその隊と脱走した兵士の家族にも危害が及んだ(処刑された)といいます。いわば、兵士という職業に就くには、家族を人質に出しているようなもので、脱走できない状況を作り出していたことが窺い知れます。

・現代との接点は、「実力がなければ契約を打ち切られる契約社員」に近かったこと!?

国の大事を左右する重要な役職に就いていた者から、名も知られない一兵士に至るまで、家柄の低かったものは実力次第で出世もクビも有り得た社会だったという点では、「契約社員・非正規雇用」に近い働き方だったと想定されます。それがいいことか悪いことかは別として、今の非正規雇用化、契約社会化している日本では、三国志の名将や迷将(?)の生き様はいいお手本になることが沢山あります。ゲームや小説で三国志に興味を持たれた方は、是非その世界観を広げて人生の参考書にしてはいかがでしょうか。